幸せのオムライス
幸せにしてくれる洋食屋がある。
どんなに心が沈んでいても、
その店のオムライスを食べれば、
とたんに胸の奥が明るくなるのだ。
町はずれにあるその店は、
ダークブラウンの木でできた可愛らしいたたずまい。
木製の扉を開けると、
カランカランという音と共に、
黒いスーツのギャルソンが笑顔で迎えてくれる。
軽やかに席まで案内してくれて、
まるで高級ホテルの執事のようだ。
店の中央には、
長い年月を経たカウンターが堂々と構えている。
壁の白さは光をやさしく返し、
木製のテーブルと赤い布張りのソファが並ぶ。
その中のひとつに腰を下ろすと、
木の温もりが手のひらに伝わってきた。
メニュー表をぺらりとめくりながらも、
やはり「オムライス」を頼む。
グラスの水をひと口飲み、
皿が届くのを待つ時間は、
まるで愛おしい人を待つような気分だ。
ほどなくして白い皿にのった黄色のオムライスが運ばれてくる。
まるでレモンのように明るい卵。
その上に、
とろりとトビ色のデミグラスソースがかかっている。
右端からスプーンでそっとすくいあげ、口に運ぶ。
その瞬間、卵のなめらかな衣がほどけ、
フライパンで焼いたご飯の香ばしさが口いっぱいに広がる。
思わず頬がゆるむ。
きっとお手製のケチャップなのだろう。
酸味が舌の上で小さく弾けた。
二回目のスプーンをさし入れると、
卵の中から宝物が次々と現れる。
ステーキに使うような肉厚のひと切れ、
白く艶めくほたて、
ぷりぷりと跳ねるエビ。
「まるで宝石箱や~」と、
どこからか声が聞こえてくる。
初めて食べたときは、
目が見開き、
あまりの美味しさに心底驚いた。
「何て美味しいの!」
「この感動を世界中の人に知ってもらいたい!」
そんな大げさな気持ちで、心が躍ったのだ。
スプーンを右端から三口、四口と進めるたびに、
幸せが波のように押し寄せる。
食べ進めるうちに「もうすぐ終わっちゃう」と、
名残惜しさが胸ににじむ。
そして、運命のときがきた。
あとひと口。
スプーンでお米の一粒までかき集めて口に運ぶ。
う~ん……と、美味しさを噛みしめる。
お皿の上には、
なぞったようなケチャップの赤が残っている。
これさえも愛おしい。
この美味しさは至福だ。
何の講釈もいらない。
ただ、美味しい――という、
幸せな余韻だけ。
会計を済ませるとき、
ギャルソンが笑顔で声をかけてくれる。
「美味しかったですか? ありがとうございました。」
その言葉と笑顔で、
オムライスの味がいっそう深まる。
「私の方こそ、ありがとうだよ―」と、
心の中で叫びたくなる。
あれから十年。
お店はもう閉店してしまった。
二度と行けない場所になったけれど、
今もオムライスを見ると、
あのときのキラキラした幸せの記憶が胸に広がるのだ。
心のリソースとは
私たちの心には、
どんなときも自分を支えてくれる
「リソース(資源)」があります。
それは特別なものではなく、
ふとした瞬間に感じた温かさ、
誰かの笑顔、
心に残る景色、
懐かしい音、
あるいは、一皿の料理の記憶かもしれません。
悲しみや不安の中にいても、
その記憶を思い出すだけで、
胸の奥に小さな灯がともる。
「生きててよかった」と、
ほんの少し息をつける。
そんな経験を、
誰もがどこかに持っているのではないでしょうか。
私にとっての“リソース”のひとつ――
幸せを思い出させてくれる、
ある洋食屋さんの記憶でした。
書くことも、こころのリソース
このエッセイは、
小川 こころさん主催
「書きたい人のコミュニティ「青猫とペン」文章表現ルーム」
のイベントでの課題として書いたものです。
テーマは
「もう一度訪れてみたい場所をテーマに、
形容詞の表現を工夫しながら、
エッセイを書きましょう。」
でした。
エッセイを書き進めていくうちに、
あらためて“味わう”という体験の奥に、
たくさんの心の動きがあることを感じました。
書くことは、
心の奥に眠っている小さな幸せを
もう一度光に当てる作業でもありました。
それは、私たちが自分自身をやさしく見つめ直す、
ひとつのリソースなのかもしれません。
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プロフィール一色 順子(いしき じゅんこ)
ハコミセラピー(身体心理療法)を2015年から2年間(360時間)学ぶ。Certified Hakomi Therapist (CHT:ハコミ研究所 認定ハコミセラピスト)米国のトレーナーからスーパービジョンを受けながら、日々セラピーの向上を目指しています。※ハコミセラピーは、40年以上世界各国で行われており、臨床的に効果的なセラピーができるセラピストの養成プログラムとして、国際的に認められています。
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